シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

真咲美岐

真咲美岐の動画を発見!

YouTubeの「東映特撮チャンネル」では、往年の特撮番組が毎週投稿されている。
今週投稿されたのは、1976年放送の「がんばれ!!ロボコン 91話」。この番組に、女優の真咲美岐がゲスト出演している。

真咲美岐は、1927年神戸生まれ。宝塚歌劇団で「真咲みのる」の名で、越路吹雪の次世代を担う男役として活躍した。
その後は文学座に所属するも、劇団の専属作家だった三島由紀夫と、看板女優の杉村春子が揉めた「喜びの琴事件」で脱退し、三島が主催する浪漫劇場に所属する。三島事件により浪漫劇場が解散すると、作家の福田恆存が主催する劇団NLTに所属した。このNLTは、東映の特撮番組と繋がりがあり、劇団員が多数出演していることから、その関係で真咲も「がんばれ!!ロボコン」に出演したと思われる。
82年、没。

真咲は、舞台だけでなく、テレビドラマにも多く出演しており、特撮番組に出演作が多数あることから、特撮マニアの間では顔の知られた女優のようだ。

そして真咲には、女優の他にもうひとつの顔がある。それは、シャンソンの訳詞家としての顔だ。
真咲は、宝塚の先輩にあたるシャンソン歌手の深緑夏代の元で訳詞をしていた。ゆえに、真咲の訳詞作品は深緑が多く歌っている。
宝塚の専門誌『歌劇』などを開くと、真咲がシャンソンに関する文章を寄せているのを見かける。おそらく、宝塚時代からシャンソンに関心があったのだろう。
ちなみに真咲の訳詞は、『深緑夏代オリジナル歌詩集』(深緑音楽事務所刊)にまとめられている。これに収録された作品の多さには圧倒される。

真咲の訳詞の代表作は、ダリダ「それぞれのテーブル」(Dalida「Tables séparées」)であろう。ちあきなおみがレコードでカバーし、歌番組などで歌っている映像も残されているので、わりとよく知られているシャンソンだ。

店のドアが開き、入ってきたのは 貴方だった
二人でこの店に良く来た頃が甦る
そしらぬふりして、煙草をつけても もう駄目なの
今は振り返り、笑う勇気さえ 失くしたの

こうして見ると真咲の訳詞は、詩的な言い回しや抽象表現がなく、説明文のようである。しかしそれがメロディに乗ると、情景が目に浮かぶドラマチックなシャンソンになるから、まさに言葉選びの達人である。

それがよく表れているのが、シャルル・アズナブール「帰り来ぬ青春」(Charles Aznavour「Hier encore」)の訳詞だ。
日本のシャンソンの世界でよく知られているのは吉原幸子の訳詞で、サビの部分は、

過ぎた昔よ 唇には歌が溢れ
あまい涙 頬を濡らし
心酔わす 若さの酒

であるが、真咲のは、

ゲームのように 日々を遊び果たし
今は 友も愛も失くし 
死にそびれた私だけが 一人生きている

である。
この2種を比べると、吉原の訳詞が詩的な言葉遣いをしているのに対し、真咲のは具体的かつ直接的な表現で書かれているのが分かるだろう。

真咲の訳詞は、私がシャンソンを聴き始めた頃に知り、「この人の歌詞はダイレクトな表現で分かりやすいな」と感じていた。
真咲美岐とはどんな人だったのか、というのを常々知りたいと思っていたが、今回「がんばれ!!ロボコン」でその姿を観ることが叶った。
番組では、資産家のマダムの役で、着物をリメイクしたワンピース姿と和装姿で登場したが、背がすらりと高くて声が低く、男役の面影が残っていた。彼女が歌うシャンソンや、三島の戯曲を演じるところなど、見聞きしてみたかったと切に思う。

「がんばれ!!ロボコン」の映像は、こちらから↓
https://youtu.be/cW77KHxCols