シャンソン歌手の石井好子が主催したシャンソンのイベントといえば毎年7月の「パリ祭」だが、もうひとつ「朝日チャリティーコンサート シャンソンの夕べ」というものがあった。これは、彼女が国連難民高等弁務官の緒方貞子と親しかったことがきっかけで開催した、難民を支援するためのチャリティー活動であった。
石井は、このコンサートに「人は誰でも難民になる可能性があります」という言葉を寄せている。難民といえば遠くの国のことのように思うが、未曾有の事態が突然起こることを知った今は、襟を正される思いになる。
このコンサートの特徴は、シャンソン歌手以外の人にシャンソンを歌ってもらうという趣旨で、政治家や文化人が毎年数多く出演した。
ところで、その出演者のなかには五木ひろしがいた。このコンサートには、歌謡曲の歌い手も数多く出演しており、ムッシュかまやつ、岩崎宏美、内田裕也、森進一などがシャンソンを歌ったらしい。
最近になって、五木がシャンソンのシングルを出していたことを知った。アダモ「雪が降る」とフリオ・イグレシアス「黒い瞳のナタリー」である。
まず驚いたのは、彼が原詞で歌っていることであった(「雪が降る」のワンコーラスは安井かずみの訳詞)。やはり発音を重視するからか、彼の個性的な歌い方が消えて、オリジナル曲とはひと味違うものになっている。
こうしてみると、五木もまた大御所歌手である以前に、洋楽の洗礼を受けた青年であったのがわかる。本人もシャンソンを歌うという気張ったものなく歌ったのではないかと思うが、そこにも好感が持てた。