シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

村上進

村上進のビデオ

先日の直村慶子の記事を通じて、読者の方々が村上進への思いを綴ってくださり、大切に読ませていただいた。今回は彼ついて記してみたい。

村上進
1948年生まれ。65年にアイドル歌手としてデビューし、その後タンゴ歌手として労音民音で活躍する。75年にイタリア留学して現地のテレビやライブハウスで活躍したのち、日本でシャンソンカンツォーネの歌い手として人気を得た。94年、病没。

彼の一周忌に、生前のリサイタルを収めたビデオが発売された。
「村上進 カンツォーネリサイタル」
92年のリサイタルのダイジェスト版である。これを見ると、CDアルバムやYouTubeの単発の映像からは見えてこない彼の姿を知ることができた。
彼の衣裳は、全身スパンコールのスーツと、黒のタキシード。テンポのいい曲では衣裳をキラキラさせながらダンスステップを踏んでキリッとした表情、訳詞家・直村慶子や田辺美奈子(彼女の作品「アラビア」等は魅力溢れる曲なので、興味深い人物だ)の曲は子供のような表情、「愛する日々(矢田部道一訳)」「カルーソ(後藤啓子訳)」は年齢相応の貫禄をもって歌っている。
詞や曲調に合わせて表情を変えて歌う姿は、まさに夢を与えるアイドルそのものだ。そしてそれは、彼のリサイタルならではの魅力であり、シャンソン喫茶などのライブハウスでは見ることができないものではなかったろうか。
レコードでは聴かせて、ステージでは魅せる。彼がいまなお「伝説の歌手」と呼ばれるのは、このスター性に裏打ちされているからだろう。

ところで、このビデオに収められた曲はニューミュージック風にアレンジされていて、舞台照明も効果的なので、シャンソンのコンサートとは雰囲気が異なる。カンツォーネのポップスの要素が前面に出ていて、80年~90年代当時の流行に合わせたステージ作りを村上が目指していたのが伺える。
何事も時代に合わせる必要は決してないが、シャンソン歌手でそれに取り組む人が今はあまりいないことがふと気になった。