シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

高毛礼誠

鉄人・高毛礼誠

前回のビショップ節子同様に、昭和30年代のシャンソンブーム以降、消息が分からない歌手がいる。
高毛礼誠(たかもれ まこと)なる人物だ。

彼は、昭和30年に東京芸大の声楽科卒業後、シャンソン歌手として銀巴里でデビューした。当時のシャンソン歌手といえば、岸洋子のように声楽の道に挫折してシャンソン界に転身する歌手が多いイメージがあるが、彼のように声楽科からシャンソン界への一本道を歩んだのを見ると、当時はシャンソン歌手という職業がある意味人気だったのが推測できる。
テレビやラジオ、シャンソンのレビュー(現在の音楽フェス)にも多く出演した記録がある。
当時は「さようなら」「カナダ旅行」「小雨降る径」「花まつり」などをレパートリーにしていたらしい。
当時の資料を見ると高毛礼の評価はどれも高く、今も活躍する音楽評論家の安倍寧は「くせのない声質が特徴…歌謡曲もよくこなす」と記している。(「日本のシャンソン界展望」浅野信二郎と共筆)

そんな高毛礼の歌声をYouTubeで発見した。
彼は実写ドラマ「鉄人28号」の主題歌を歌っており、そのオープニング映像が残っていたのである。
それを聴いて、私が思い浮かんだのは東海林太郎であった。
「くせのない声質、歌謡曲をよくこなす」のは当然で、彼の歌声は歌謡曲向きそのものである。
彼の肖像と照らし合わせながら歌声を聴くと、生真面目に鉄人のごとくステージに立っている姿をイメージしてしまう。

戦前に人気歌手だった東海林太郎が懐メロ歌手として括られてしまったのを考えると、高毛礼がシャンソンブームが去ったのちにシャンソン界からフェードアウトしていったわけを察せずにはいられない。
なお彼の消息や、「鉄人28号」の主題歌以外の曲はソフト化されたのか、というのは調べることはできなかった。