シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

シャンソニエ エルム

名古屋に研修の折、シャンソニエ「エルム」に伺った。
ここは、名古屋を代表するシャンソニエであると同時に「日仏シャンソン協会」(以下協会)の拠点でもある。この協会の活動は、シャンソンを通じて日仏の交流だ。日本のシャンソン歌手が多く所属する「日本シャンソン協会」が国内でのシャンソンの普及を目的としているならば、この協会はフランスで通用する歌手の育成を目的としており、私は以前から全国的に見て特異な名古屋のシャンソン事情に興味があった。

今回「エルム」に伺った日は、私が協会で一番好きな歌手、岡山加代子さんのステージだった。生で聴く岡山さんの歌声は魅力溢れるものであった。また岡山さんはじめ前歌の歌い手全員の歌う時の姿勢が、体の軸がぶれていないことに気づいた。おそらく、歌唱だけでなくステージアクトのレッスンもこなしているのであろう。
この日のライブのタイトルは「法定訳詞コンサート」。ライブのセットリストの全ての歌詞が、ジャスラックに登録された著作権つきの作品である。ライブのピアニストとして出演した協会理事の加藤修滋さんによれば、フランス語の歌詞を日本語に翻訳した「訳詞」に著作権をつけるには、「訳詞」を再びフランス語に翻訳し、それを原作者に見せて納得してもらった上で日仏の著作権団体に申請する手続きを踏まねばならないそうだ。フランス語の歌詞を日本語に直訳してメロディーに乗せるのは不可能に近いため、大半の「訳詞」が意訳あるいは改変されていることを考えると、この作業がいかに難しいかが想像できる。
これを協会では積極的に行ない、日仏共通の「法定訳詞」を共有することで、両国のシャンソン関係者同士の交流を育んでいるそうだ。こうした「法定訳詞」として認められた曲や、日本では知られていない比較的新しいシャンソンを、協会では「シャンソンルネッサンス」と称して、普及につとめている。「ルネッサンス」には、一度絶えたものが甦るという意味があるため批判もあるそうだが、フランスのシャンソンが68年の五月革命を契機にパンクやロックの影響を受け始めたことで終焉したという史観(ピエール・サカ『シャンソンフランセーズの歴史』)に基づけば、あながち間違いではない。
数年前に話題になったエディット・ピアフの歌声によく似たZAZも、「シャンソンルネッサンス」に分類されるだろう。しかしながら、日本の歌手では高木椋太が自身のリサイタルで彼女の楽曲に取り組んで以来、後に続く歌手が皆無なのを見ると、最新の楽曲をレパートリーに加えることには奥手な風潮があるのかもしれない。

日本におけるシャンソンの滅亡論はよく耳にする。しかしシャンソンを愛し、その魅力を発信しようとする者は沢山おり、その方法も千差万別である。
私個人、シャンソン継承には「若者にシャンソンを聴いてもらえたら」という思いを抱いているが、「エルム」に伺ったことで、フランスとの交流もまたその可能性を秘めているのだという、新たな考えを知るきっかけとなった。