シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

『戦前 日本シャンソン史』発売

残部わずか


『戦前 日本シャンソン史』発売

この度、私が長年かけて研究していた、戦前の日本のシャンソンの歴史に関する本を自費出版しました。

宝塚の「モン・パリ」「すみれの花咲く頃」、フランス映画の「パリの屋根の下」「巴里祭」、ヒット曲「サ・セ・パリ」「聞かせてよ愛の言葉を」、佐藤美子、淡谷のり子、蘆原英了にいたるまで、戦前の日本でシャンソンの普及に関わった楽曲や人物を取り上げました。
付録には、昭和28年に来日公演をした、ダミアの1ヶ月のドキュメントを収録。

夢の国フランスの流行歌に心奪われ、その魅力を日本に普及させようとしたレジェンド達の「シャンソン愛」の軌跡をお楽しみください。

峰艶二郎『戦前 日本シャンソン史』(MN新書)
1500円(送料込)


拙著を御高覧くださった、三神恵爾様より書評を賜りました。
三神様は、拙著の表紙のコラージュ作品の作者です。
拙著を上梓した真意を汲み取ってくださり、心から感謝いたします。


私の主宰する「がいこつ亭」でもシャンソンに関する原稿を寄稿してくれている、若い書き手である峰 艶二郎さんの初めての著書、『戦前 日本シャンソン史』(私家版)が完成した。表紙に私のコラージュ作品「予兆」が配されている。峰さんはこのFacebookをフルに活用し、主に日本におけるシャンソンの受容の歴史を研究し書いてきた。若きシャンソン研究家として、近年その才能を方々で着実に評価されつつある。

わずか100ページを少しだけ越える程度の薄い冊子のような著書だが、8編の論稿が収められている。これまでに書かれた文章のそれはほんの一部に過ぎないものと思われるが、あらためて目を通してみると、峰さんもまた私と同じ同志のように思えるほどに、反骨の意思をはっきりと胸に宿していることが分かる。8編の中でも力がこもっているのはやはり、戦時下のシャンソンを論じた一章だ。

その中で峰さんは、こう書いている。
「昭和一六年に太平洋戦争が始まると、敵国である洋楽を歌うことは不謹慎とされ、軍歌や軍国歌謡一色となる。とはいえ、開戦当初に政府が示したのは『明るく戦時下を乗り切る』ことであった。国民が明るく過ごすことで、厳しい戦時下の生活を乗り切ることができるという『飴と鞭』の方針をとったのだった。現に開戦当初は、ハワイアンをはじめとする洋楽を聴くことが許され、落語や漫才が娯楽として流行した。」

なかなかの炯眼だ。いつの時代であれどこの国であれ、世の中がきな臭く軍国主義一色に染まってゆくときは、案外このように明るい闇を保護色としてまとっているものだ。ほんとうはすでに黒々とした闇の帷が降りていたとしても、そのことに気がつかないように明るく振る舞いながら、初めは徐々に、そしていつか気づくとすでに抜けられない泥沼にはまっていたというのが、戦時下の正しい光景だ。そんな怪しげな世の中の変貌とシャンソンもまた、当然無縁ではなかったということらしい。

この本を出すにあたって峰さんは、表紙に用いた絵をぜひとも使わせてほしいと希望した。どうしてまた、こんな暗いものをと最初は思ったものだったが、峰さんが好きなピンクの背景の中に置くと、なるほど峰さんの狙いがどこにあったのかが理解できた。この表紙から立ち上がる明るいイメージ、それにも関わらず私の絵の醸し出す不穏なムードが、すなわち「明るい闇」とシャンソンのテーマとピタリ一致しているではないか。シャンソンに限らず歌は時代を映す鏡であり、危機を予知するカナリアでもあるはずだ。そうしたイメージを私のこのコラージュ作品に見てとった峰さんはだから、わが「がいこつ亭」の同志に間違いない。

いずれ遠くない未来に、もっと豪華な本を出版できるようになるかもしれないとは思うが、この小さな一冊が記念すべき一歩を記す一冊であることに間違いはない。その刊行に一役買えたことは何よりだ。また一緒に仕事ができたらいいね。私の部屋でこの本にふさわしい場所を探し、書棚の一角に置いてみた。『うたの思想』『流星ひとつ』『琉歌幻視行』どれもみな、歌を論じて反骨の響きを奏でているものばかりだ。そこにそっとこの本を加えたいと思う。