シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

岩見沢「シャンソン酒場People」



北海道岩見沢に「シャンソン酒場People」というお店があることは、数年前からネットを通じて知っていました。とはいえ「シャンソン」と銘打っても、シャンソンの店とは限りません。
ずっと気になっていたので、先日思いきって連絡してみたところ、マスター様がシャンソンがお好きで、お店でシャンソンのレコードやCDを流しているお店だということを確認できました。
早速、片道一時間かけて足を運びました。

お店は、岩見沢駅前の飲み屋街のビルの2階にありました。窓看板や行灯を見た時点で、ドキドキします。

お店のなかは、カウンター席とテーブル席のこざっぱりした内装でした。カウンターのなかに並べられたCDやレコードをチラチラ見ながら、マスター様のお話を伺わせていただきました。

マスター様は元々、岩見沢市内のジャズシンガーのママさんのお店のもとでバーテンのノウハウを鍛えたそうです。マスター様は、シャンソンに惹かれたことから、シャンソンのレコードを流す店を開店し、現在の店に移転した後の期間を合わせて、約50年にわたりお店を営まれております。

マスター様からは、来道した越路吹雪さん、金子由香利さん、美輪明宏さんのリサイタルのお話を伺いました。さらに、岩見沢でコンサートを開かれた、イヴェット・ジローさん、深緑夏代さん、加藤登紀子さんの裏話も伺えて、私のハートは破裂しそうでした。
また、お店の周年パーティーには、札幌で活躍する多数のシャンソン歌手が歌声を披露したそうです。

お店を支えたのは、かつて岩見沢にあったシャンソン愛好会の人たちだったそうです。
ところで、昭和30年代に東京で発足した「シャンソン友の会」(代表・菊村紀彦)という愛好会がありました。この会は全国に支部ができて、北海道は岩見沢支部があったのです。

なので、私はかねてより「岩見沢にはシャンソンブームの痕跡が残っているはずだ」と推測しておりましたが、今回お店を訪れたことをきっかけに「シャンソン友の会」のメンバーが独立して、岩見沢市内で活動していたのを知れました。岩見沢の関係者はすでに亡くなられたそうですが、時を越えてその思いに触れたような気がいたします。

マスター様は、あるお客様のお話を聞かせてくださいました。
はじめて来店したその方は、アンドレ・クラヴォー「エルザの瞳」というシャンソンをリクエストされたそうです。

客「この曲、マニアックだからご存知ないかもしれないですが…」
マスター「CDなら持ってますよ」

マスターがその楽曲をかけると、客は無言で聞き入り、最後は涙を浮かべていたそうです。その方は、学生時代に先輩の家に呼ばれると、必ず「エルザの瞳」のレコードを聴かされたそうです。そして時が経って、その先輩が亡くなったという知らせを受けたとき「エルザの瞳」のことを思い出し、改めて聴いてみたいと思ったそうです。ですが、どこの音楽ショップに尋ねても見つからず、たまたま目に入ったこのお店に入って、ようやく楽曲と再会したとのことでした。
マスター様は、シャンソンはマイナーだけどこうしたお客様に寄り添える店にしていきたい、と語られました。それは、まさにシャンソン愛だと思いました。

マスター様は、お店秘蔵のとっておきのレコードを1枚聴かせてくださいました。

それは、リュシエンヌ・ドリールのLPレコードで、そのなかに彼女が日本語で歌った「ジェルソミーナ」が収録されていたのです。
はじめてそれを聴いた私は感激しました。上質なスピーカーから流れる、彼女の歌声と「パチパチッ…」と心地よいレコードよ針の音が、若くして白血病で亡くなったドリールの運命を内包しているようにすら思えました。

かつて「シャンソン喫茶」と呼ばれるお店は、歌手がステージに立つライブハウスだけでなく、シャンソンのレコードを聞かせる店も指しました。レコードが貴重品だった時代は、それでお店が成り立ったのです。
岩見沢の「シャンソン酒場People」は、オールドスタイルの稀有なシャンソンのお店です。このスタイルを貫くシャンソンの店は、日本にここだけではないか?とすら思うのです。

そんなお店が、私が住む北海道に存在したことは、大きな喜びです。
お店から出た後、次はいつ行こうか、とスケジュール帳を開いてしまいました。

【住所】
 岩見沢市3条西1丁目
【電話番号】
 0126-24-5505
【営業時間】
 18時30分~
【定休日】
 日曜日