
7月24日、苫小牧のシャンソニエ「カプリス」へ。
こちらは、北海道唯一のシャンソニエであり、毎月末には道内外で活躍するシャンソン歌手をゲストとして招いている。
かつて、苫小牧には「ペペ・ル・モコ」というシャンソニエがあった。
「ペペ・ル・モコ」が閉業した後、そこで働いていた現在のママさんが「カプリス」をオープンさせた。
そして今月は、その「カプリス」が30周年を迎えるアニバーサリーマンスなのだという。
今夜のゲストは、苫小牧出身で都内で活躍する唯文さん。

昨年、東京ドームシティホールで開催された「パリ祭」はライブ配信されたが、その時に視聴した唯文さんの「今夜は帰れない」が素晴らしく、ぜひとも生のステージを観てみたいと思っていた。
唯文さんは、昨年夏も「カプリス」に出演していたが、その時は私の勤め先でコロナのクラスターが発生してしまい、泣く泣く観覧を断念したのであった。
そして今夜、ようやくその夢が実現したのであった。
はじめてお会いする唯文さんは、私に御心を尽くしてくださり、私のリクエスト曲の数々に応えてくださった。
愛しかない時
She
勝手にしやがれ
センチメンタル・ゲイ・ブルース
ハイヒール
アコーディオン弾き
今夜は帰れない
唯文さんのステージを間近で観覧して、私は氏の歌声に「男の死からの再生」が共通して表れているのを感じた。
三島由紀夫は「大義のために死ぬ」ということを、男の死に方の理想としたが、唯文さんの「今夜は帰れない」には、恋人に寄り添うことができない諦念と同時に、祖国のために死んで麦の穂として生まれ変わる悲劇的英雄への憧れが、際どいバランスで込められている。
一方で、今年の「パリ祭」でも歌われたという「愛しかない時」は、戦場をくぐり抜けた冷めきった目で非戦を訴えているように感じた。
戦争を知らない人間が声高に反戦を訴えるのとは異なる、惨禍を知るからこそ主張できる説得力を醸し出しているように思え、やはりこれも「男の死からの再生」だった。
そして「センチメンタル・ゲイ・ブルース」は杉本真人さん、「ハイヒール」は井関真人さんによる歌謡曲で、ともにオネエが主人公だ。
ひとりの男がホモセクシャルに目覚め、やがて「男」というセクシャリティーを捨てて、女装をして「女」として生きていく姿を描く。
伸びてくるヒゲやスネ毛、男の足に合わないハイヒール、などの男が女に成りきるための苦悩が散りばめられたコミックソングだが、その根底のテーマは男としての自分を殺して社会で生きる哀歌に他ならない。
我ながら堅苦しく唯文さんのシャンソンについて記したが、氏はこうした深刻なテーマを前面に出さずに、実に華やかに楽しく、そして卒なく歌っている。
そのエンターテインメントぶりに、私は清々しい好感を抱いたのであった。