シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。

韓国のシャンソンの始祖、イ・ミベ(이미배)

韓国のシャンソンの始祖、이미배(イ・ミベ)

韓国語でシャンソンは、「샹송(シャンソン)」と表記される。
女性歌手、이미배(イ・ミベ)は、その「샹송」を韓国で最初に紹介した人として知られている。

イ・ミベは、1951年生まれ。
小学生のときから子供合唱団で活動し、1971年に大学生向けのジャズフェスティバルで最優秀賞を受賞した。
1979年に歌手デビューし、「당신은안개였나요(あなたは霧なのか)」というヒット曲を持つ。
また、ジャズやラテンなど世界中の楽曲を原語で歌っている。
現在も歌手活動を続けているらしい。

イ・ミベが、シャンソンの始祖として言われているのは、1987年に発表された彼女の4枚目のアルバム『샹송 깐소네(シャンソンカンツォーネ)』に由来すると思われる。
これは、シャンソンカンツォーネを集めたもので、「思い出のマリッツァ」「エマニエル夫人」「雪が降る」「バラ色の人生」「夜のメロディ」「枯葉」などが収録される。
まず目を引くのは、これらのシャンソンが韓国語の訳詞と原語の折衷で歌われていることだ。
シャンソンが他国でカバーされるときは、訳詞で歌われるのが宿命のようであり、いよいよ「訳詞は日本の文化」などとは言えなくなってくる。
そして収録曲を見る限り、イ・ミベは日本のシャンソン歌手のように、戦前のフランスの楽曲を取り上げてはいない。
世界的に有名なシャンソン、あるいは自分と同時代で流行ったシャンソンをレパートリーにしているフシがある。
ゆえに、彼女はシャンソンを探求して韓国にもたらしたというよりは、同時代のヨーロッパのヒット曲をカバーしたら、はからずも韓国シャンソンの始祖として名前を残してしまった人物だと言えよう。
何より、このアルバムは資料的価値はあれど、楽曲の雰囲気が暗すぎて聴くに耐えない。
あまりにも韓国歌謡の雰囲気を引っ張りすぎている。
イ・ミベの歌声が例えるならば渡辺真知子に似た伸びやかでパンチの効いたものだけに、残念な仕上がりだと言わざるを得ない。

イ・ミベの本領が発揮されるのは、2018年のアルバム『The Story』だ。
昨今のK-POPの興隆によって、彼女のレパートリーの編曲が劇的に変化したのである。
このアルバムでは、「バラ色の人生」「Feeling」「雪が降る」がカバーされているが、どれも過去の楽曲とは異なる洗練されたアレンジが聴く耳に楽しい。
特に面白いのは、「雪が降る」で「雪が降る、あなたは来ない、雪が降る、全ては消えた」のセリフがヒップホップで歌われていることだ。
こんなアレンジをしてよいものなのか、と驚くばかりだが、不思議と違和感がなく聴くことができる。

韓国でもシャンソンが歌われていることは、新たな発見であった。
きっとイ・ミベ意外にもシャンソンをカバーしている歌手がいると思われるので、今後も調べていきたい。

イ・ミベ「雪が降る」(2018年ver)

https://youtu.be/nCWxUQxv0hQ?si=0V1UVSYcOOF_lA9W