シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。

神戸「パリ祭」観覧記、そしてこれからの私について

昨夜神戸にて「パリ祭」を観覧しました。
パリ祭は、数年前に東京で観覧して、地方公演も観てみたいと常々思っていたので、念願が叶いました。

抜群の歌声とダンスで会場を華やかに盛り上げる風かおるさんを中心に、ご出演の歌い手さんたちがひとつになって、アットホームな雰囲気のステージでした。
ご出演の皆様の歌唱やステージアクトの質も高く、まさにシャンソンの祭にふさわしいひとときでした。

今回のパリ祭では、お名前は存じ上げていてもそのステージを観たことがない方が沢山おりましたので、楽しめました。
昨年のコンクールで受賞されたウェン・シュウさんは、素晴らしいフランス語と若さのなかに物憂げなアンニュイを秘めた歌声を披露されて、会場を圧倒しておりました。
川島豊さんの「パリ・ラ・ニュイ」は、パリの夜の魅力を語り伝えるもので、紳士的かつ危険な香りを漂わせて、観客をワクワクさせました。
山田直毅さんは、張りのある歌声と気品に満ちた佇まいに、すっかり魅了されました。ステージに礼節を感じさせる男性の歌い手さんがいらっしゃることの安心感を覚えます。
吉永修子さんの「老夫婦」は、歌詞に説得力を持たせた歌唱で、まさに歌い紡ぐという印象でした。
ゲストの安奈淳さん「愛あればこそ」は、シャンソンではないけれど、ベルばらブームを支えた自負を感じさせる堂々としたもので、芸道の重みを感じさせるものでした。

そして一番感動したのが、風かおるさん「行かないで」でした。
歌い出しの「行かないで」を夜の霧が流れくるように静かに歌い、そこから「お互いにもう若くないのに、別れるのはデメリット」とということを、冷静かつ論理的に語っていく。
なのでフランス語の原詞にもある「あなたの影になって生きる」というフレーズが生きてくる。
そして、ラストで感情を爆発させて相手に「行かないでっ!」すがりつく。
この理知から本能になだれ込んで、ドラマを構築していく技術の妙に感服し、そしてとめどない感動が私の全身から溢れました。

こんなふうに、パリ祭の観覧を満喫しつつ、私は別のことも考えていました。
それは、この神戸をもって、私の旅を最後にするということです。
私は今年の初めから疾患を患い、長旅が難しくなりました。
これまで、シャンソンのために沢山の旅をしてきました。
はじめて東京のシャンソニエで観た広瀬敏郎さんのステージ、仲代圭吾さんや出口美保さんなどの鬼籍に入られた方のステージ、私の訳詞を歌ってくださった小貫和子さんと笠原三都恵さんのステージなど、素晴らしいひとときが甦ります。
そして、シャンソンを聴けない人間がシャンソンを語るのはおごがましい、執筆家としての一線の引き際も決意しました。

とはいえ、昨年に観覧することをお約束した公演、お招きいただいた公演もございます。
先日は、面白い資料が手に入りましたので、それについてもご紹介したい。
私の心は揺れています。

昨日訪ねた須磨寺で、歌舞伎「熊谷陣屋」の有名なセリフを思い出しました。
「十六年はひと昔」
いまの私の心情そのものです。