シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

蛙たち創業60周年記念コンサート

3月7日、8日に開催された「蛙たち創業60周年記念コンサート」を、万感の思いで観覧した。

銀座のシャンソニエ「蛙たち」は、世の中がコロナ禍の自粛生活を強いられたなか、ライブ配信を始めた。
お店を存続させるための鋭意努力を感じるとともに、私が住む札幌と東京のシャンソニエの距離感が縮まったきっかけでもあった。
長年活躍されている多くのベテラン歌手のステージを自宅でリアルタイムで楽しめることは思いがけない幸せであるとともに、「蛙たち」独自に出演する歌手、企画のライブに目を見張ったものであった。
その集大成となったのが、今回のコンサートであったと言えよう。

1日目のコンサートを一言で表すなら「革新の夜」にふさわしい。 
蛙たち」に出演する、いわゆる若手や中堅の歌い手さんが、これからのシャンソン界を支え、華やかな業界として発展させてゆくであろう希望を感じた。
日本シャンソン協会主催の「次世代シャンソン歌手発掘コンテスト」は、30歳以下の若手シャンソン歌手を見出だすものであるが、それで栄誉に輝いた藪内彩奈さん、レジョン・ルイさん、八田朋子さん等は、「蛙たち」を活動拠点にしてシャンソニエの歌手として技巧を磨かれている方々であり、全身にみなぎるガッツと洗練されたステージは、私の胸を高鳴らせる。
また、「蛙たち」の出演をきっかけにしてシャンソンの世界で飛翔する、右近健一さん、あやちクローデルさんのステージも、力強く圧倒させられた。
加えて、竹下ユキさん、花木さち子さん、三戸亜耶さんは、「蛙たち」の企画ライブ「Diva」で、川島豊さん、桜井ハルコさん、劉玉瑛さんは「王子と姫たち」で心奪われた歌い手さんだけに、感慨深いものがあった。
そして、安奈淳さん、仲マサコさん、日高あいさんは、長年のご活躍に裏打ちされた包容力のようなものが溢れる歌唱で、観るものを感動させた。

2日目は、「貫禄の夕焼け」と名付けたい(開演が15時だったので)。
長年の歌手活動なかで培われた実力ある歌い手さん方の圧倒的なステージは、舞台袖から登場して客席に顔を向けただけで、その世界観が会場全体に広がってゆくような、魅惑的なものであった。
瀬間千恵さん、池田ひろ子さん、井関真人さん、かいやま由起さん、渡辺歌子さん、広瀬敏郎さん等は、半世紀をシャンソンに捧げられてこられた方々だけに、そのステージは聖性に満ちていた。
そして、荒井洸子さん、西原けい子さん、松宮一葉さん、浜砂伴海さん、青木FUKIさんの高らかな歌声は、天地の震動のようだ。
加えて、「銀巴里」の精神を継承しようという志を抱くクミコさん、深江ゆかさん、ご自身の訳詞で新しいシャンソンを創造する水織ゆみさんのステージは、長年のキャリアのさらに先を目指すアクティブな精神を感じた。

この2日間のコンサートを観覧して、私は「蛙たち」が、日本のシャンソンの最前線であると思わずにはいられない。
蛙たち」の動向が、日本のシャンソン界という音楽業界の滋養となり、安息地となり、刺激となっていることに、私は深い敬意と感激を覚える。

今回の観覧にあたり、「蛙たち」オーナーの北村ゆみ様に多大なお心遣いをいただいたことに、この場を借りて御礼を申し上げます。
その上、北村様を通じて、大野修平先生、勝見弘三様にご挨拶できたことは、私にとって幸せなことでした。
そして、客席でお会いすることができた、小貫和子さん、笠原三都恵さん、右近健一さんと、熱烈なシャンソン談義を交わせたことも楽しい思い出となりました。

歴史ある「蛙たち」が、銀座の満天の夜空に輝く北極星ならぬ“カエル座”として益々のご発展を遂げられますことを切にお祈りいたします。