シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

寺内タケシ

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6月18日に亡くなった寺内タケシ
私は「寺内タケシとブルージーンズ」の「旅姿三人男」が好きで、「お前さん、江戸っ子だってねェ」「神田の生まれよォ」というべらんめぇが聞こえてきそうな軽快な演奏を、夜勤明けの眠気覚ましによく聴いていた。
訃報を機に、彼のミュージシャンとしての歩みや功績を知り、その才能とプロとしての精神に感銘を受けた。

ところで、そんな「エレキの神様」はシャンソンを弾いちゃいねェのかい?、というのは当然の関心事である。
早速調べてみると、こんなアルバムが手に入った。

「メローフィーリング  テリー、ヨーロッパひとり旅」

「テリー」とは寺内の愛称で、このアルバムはシャンソンとイタリアのカンツォーネを中心に構成されている。なお、このアルバムは「寺内タケシ」名義なので、ソロアルバムのようだ。

聴いてみると、なかなか面白い。ヨーロッパの楽曲だからと気取ることなく、まるで昔聴いた音楽をふっと思い出して鼻唄を歌うかのごとくエレキで弾いてみせる。それでいて、楽曲の世界観を壊しておらず、かつ演奏に華があり、リスナーもリラックスして楽しめる。寺内と同じ世代なら、彼の演奏に共感をも覚えるだろう。

しかしながら、そんななかにも一曲だけ彼の本領が光る楽曲がある。
ドイツで作られたのちに、フランス語の歌詞が付いてシャンソンとなった「小雨降る径(Il pleut sur la route)」というタンゴだ。
ヨーロッパで作られたコンチネンタルタンゴを寺内がエレキで弾いているが、彼がまるでタンゴのリズムに挑むように爪弾いているのが印象的で、そのスリリングなプレイに引き込まれる。エレキで弾く「小雨降る径」は、元来センチメンタルな雰囲気の楽曲にもかかわらず、その裏に隠された悲愴感が際立つ。
そして、よくよく思えば、この楽曲の歌詞は、

「暗雲たちこめた空に、あちらこちら雷雨降りしきる
(L'orage est partou Dans un ciel de boue)」

というもので、小雨どころではないのであった。
彼のそんな際どい演奏のなかにも、タンゴが持つ気品は失われておらず、むしろより際立っているのが、まさに「神業」であろう。

このアルバムを聴いて、寺内の音楽への向き合い方のようなものを垣間見た気がする。楽曲によってアプローチの仕方を自在に試みることができる、その引き出しの多さがプロの証だと言えるだろう。
(敬称を略させていただきました)