シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

北村維章

調和の美ー北村維章のタンゴ Ⅱ

前回、北村維章のアルゼンチンタンゴのアルバムを紹介し、コメント欄に「コンチネンタルタンゴも聴きたい!」と書いたら、早速願いが叶った。
昨日、出先でレコードの投げ売りコーナーを見つけ、『哀愁のコンチネンタルタンゴ』(勁文社 昭和36年? ソノシート3枚組)を発掘したのである。

ソノシートとは、ビニール製のペラペラした形状のレコードで、雑誌の付録などで使われていた。この『哀愁のコンチネンタルタンゴ』も雑誌形式で、タンゴに関する読み物と音源を楽しめるようになっている。

このレコードでは、北村がバンドマスターをつとめる「東京シンフォニック・タンゴ・オーケストラ」と「オルケスタ・ティピカ・シエテ」の合奏が収められている。
収録曲は、北村の調和の美のこだわりを感じるものばかりであった。特に「鳥が鳴かない日があっても、このレコードが1、2枚売れない日はない」と言われた、コンチネンタルタンゴの代表曲「碧空」は、クラリネットがメインの官能的なアレンジで面白く聴くことができた。
加えて、レコード盤自体に写真がプリントされているのも美しい。針を落とすのがもったいなく感じる。

本のほうには、八巻明彦によるコンチネンタルタンゴに関する解説が掲載されており、私が知らなかったことが多く記されているので紹介したい。
コンチネンタルタンゴは、アルゼンチン発祥のアルゼンチンタンゴに対して、ヨーロッパ諸国で作られたタンゴを表す。しかし、コンチネンタルタンゴという言葉は、戦前のビクターレコード洋楽部がレコードを売るために作った造語らしい。ヨーロッパタンゴとせずに、あえてコンチネンタルタンゴ(大陸のタンゴ)と名付けたところに、当時のモダンなネーミングセンスを感じる。
また、フランスのシャンソンを日本にもたらしたのが宝塚少女歌劇団の音楽劇「モンパリ」の主題歌「私の巴里」であったように、日本にコンチネンタルタンゴをもたらしたのが、昭和8年の松竹少女歌劇団による音楽劇「タンゴ・ローザ」の主題歌「バラのタンゴ」だった。少女歌劇が、ヨーロッパの流行の音楽を発信するメディアの一端だったことは興味深い。

調べてみると、タンゴの世界もシャンソン同様に奥深いものだ。今後も興味があるレコードなどを見つけたら、色々聴いてみたい。

『哀愁のコンチネンタルタンゴ』
ラ・クンパルシータ
小雨降る径
夜のヴァイオリン
黒い瞳
碧空
ジェラシー
真珠とりのタンゴ