上野「Qui」における、花田和子様とご門下生のステージを観覧する。
先日、花田様は歌手生活60周年を迎えられた。
ステージで歌われる花田様を拝見していると、目の前に桜吹雪が舞い散る幻影が脳裏に浮かんでくる。
ピンク色の花びらが風に散る様は美しい。
そして「春は別れの季節」であるように、ひとひらのもの悲しさをたたえている。
花田様のシャンソンの数々、たとえば「ラストワルツ」は、卒業式で見る桜を想起させる。
花田様がリーヌ・ルノーのレコードを聴き、高野圭吾様に訳詞を依頼したという「昔のうた」をはじめ、昔を偲び、孤独を感じる楽曲の数々が印象的だった。
「フレデ」「私の孤独」などを聴きながら、美しい時代を生き、多くの人々との別離を経験したであろう花田様の人生に思いを馳せた。
花田様は、シャンソンをご自身の鏡としていらっしゃるのだと思った。
華やかさのなかにある物悲しさ、これは日本的な情緒であり「滅びの美」だ。
そして私は、花田様の同郷の寺山修司の言葉を思い出さずにはいられない。
「さよならだけが人生ならば、また来る春はなんだろう」。
ご共演のご門下の方々の印象的な1曲を。
高崎啓子様「ヴェニスはあなたの胸に」
高崎様は、言葉を大切に歌いながら、楽曲の世界観を作り上げていく方だった。特に水辺をテーマにした楽曲の相性の良さを感じ、女性が恋人と過ごすのを夢見るヴェニスの水辺と、現実に自分の住むアパルトマンの目の前を流れる汚れた川辺との対比がよく現れていた。
山口泰子様「最後のワルツ」
山口様は、佇まいに輝かしい雰囲気があり、宝塚ご出身であることをあとで伺った。恋人との別れの際にワルツを踊るシーンは、歌声と身振りに優雅さが溢れ、世界観に強く引き込まれた。