シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

ダミア来日公演の新資料

ダミア来日公演に関わる、新資料を入手した。

シャンソン歌手のダミアは、昭和28年4月28日に来日し、5月3日より東京をはじめとする6都府県で『フランスのシャンソンはダミアとともに』というコンサートツアーを行っている。
そして、5月25日から27日にかけて、有楽町にあった日劇ミュージックホールにて『ダミアの夕』というコンサートが開かれている。

今回入手したのは、5月28日に横浜EMクラブという場所で開かれた『シャンソンリサイタル・ダミア』というコンサートのプログラムだ。
コンサートの主催は、横須賀ミュージカルセンターとある。
いままでダミアの5月27日以降の国内での消息がいままで分からなかったので、貴重な資料だ。

プログラムは見開き4ページで、ダミアの写真と当日のセットリストの曲名が記された簡素な作りである。
ちなみに、表紙のダミアの肖像画は、コロムビアレコードがダミア来日にあわせて発行したポスターの使い回しであり、短期間で簡易的に作られた印象を受ける。

当日のピアノ伴奏者は、ダミアともに来日したドミニク・ジェラール。彼女と行動をともにし、前座をつとめた声楽家の佐藤美子、ピアニストの高木東六は出演していない。
披露されたセットリストは、『フランスのシャンソンはダミアとともに』のものと同じ内容である。

このコンサートで注目すべきは、会場の横浜EMクラブだ。
ここは、もともと明治35年に建てられた海軍下士官兵集会所であり、軍人や家族が使える宿泊所、売店武道場、劇場が設営されていた。
しかし、戦後は進駐軍が接収し、EMクラブと名を改めて、アメリカ軍施設として昭和58年まで使用された。
ここの劇場では、フランク・シナトラディーン・マーチンなどが来日公演をし、同時に江利チエミなどの米軍キャンプまわりをする日本のジャズプレイヤーにとって憧れのステージだったらしい。

つまり、この5月28日のダミアのコンサートは、日本に駐留するアメリカの軍人たち向けのものだったのである。
ダミアが来日した昭和28年は、日本はアメリカからすでに独立していた。
しかしながら、来日歌手のアメリカ軍向けのコンサートが企画されていたという事実が興味深い。
加えて、こうしたアメリカ軍施設での公演があったという記録が、芸能史に残ることも珍しいのではないだろうか。

ところで、このプログラムにはダミアのサインが記されている。
来日中のダミアは気さくに観客との交流を図ったらしいが、それはアメリカ軍相手においても変わらなかったらしい。