シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。著書『戦前日本 シャンソン史』(1500円.完売)。htmt-mth@ezweb.ne.jp

岩見沢「シャンソン酒場peuple」を訪ねる

「おい、峰! 水織ゆみさんのライブには行ったのか?」

昨日こんな電話が、岩見沢シャンソン酒場peuple」のマスターからかかってくる。

「うぃっす、明日お店に行きますわー」
と答えて、今日の「シャンソン酒場peuple」の訪問である。

岩見沢は雪は降っていないが、とても寒い。
襟を立てながら、お店が入っているビルの入口をくぐる。
マスターも、とっくりのセーターを着込んで迎えてくれた。

話題は、訃報が届いたシャルル・デュモンとグラシェラ・スサーナについて。


マスターが饒舌にデュモンの経歴を語る。
マスターはネットはやっていないらしいが、デュモンの詳細な経歴は完璧で、よっぽど彼のことが好きだったのだと思う。
デュモンはエディット・ピアフに曲提供をした人。
彼はシャンソンが最も盛り上がった時代と繋がることができる唯一の人物だったと思うし、その訃報はその時代との結びつきが絶たれることを意味すると思う。
私もマスターも、共に喪失感を抱いたのだと感じた。
最初に流したレコードは、デュモンの代表曲「夜明けのタバコ」からスタートした。

「日本でデュモンをカバーした歌手がいるんだよな」
と、もったいぶりながらマスターが出してきたのは、越路吹雪さんがデュモンと共に制作した「ユーヌ・シャンソン」というレコード。


越路さんがフランスのデュモンのもとを訪ねて、彼とともに彼の楽曲をカバーした意欲作。
このアルバムのことをすっかり失念していたので、
「そういや、こんなアルバムがありましたねぇ」
と、私も一本取られた。
一曲目の「それとも愛」は、デュモンと越路さんのデュエットで、デュモンのフランス語歌唱からから日本語で歌う越路さんの入り方たるや、絶佳である。
二曲目の「知らない街」は、
「これは越路さんとか、深緑夏代さんとか、まぁベテランが自分の味を出して歌ってたよねぇ」 
というマスターの言葉に頷くばかりだ。

そして、恒例となったマスターのレコードコレクションウォッチング(?)では、グラシェラ・スサーナのレコードを沢山見せてくださる。
彼女の「アドロ」のレコードが世間でヒットする前、マスターが店で流したことがきっかけで、岩見沢でのレコードの売上がケタ違いだったという自負を持つからか、彼女のレコードは発売されるたびに買い集めていたようだ。

とはいえ、私がリクエストしたのは長谷川きよしさんのレコード。


最近、NHKで長谷川さんか歌っているのを見てから気になっていた存在だ。
長谷川さんと加藤登紀子さんのフォルクローレ「灰色の瞳」はあまりに有名だが、私はそのオリジナルレコードを聴いたことがなかった。
「別れのサンバ」、「黒の舟唄」、「鳳仙花」など、良い曲が収録されている。
「これ、CDで出てるんだから買えばいいだろ」
「CDだと高いからレコードで欲しいんすよね」
ライブ盤は、プログラムの進行や雰囲気を感じ取るのが大事だから、やはり「灰色の瞳」だけを聴くのはナンセンスで、きちんと通しで聴きたいと思った。

「そういや、岩見沢出身のシャンソン歌手がいるんだけど知ってるか?」
と言って、マスターが取り出したのは水谷寿美さんのコンサートのプログラム。


「水谷さんって、ボイストレーナーで唯文さんのお師匠さんじゃないですか!」
まさか、水谷さんが岩見沢出身とは知らず、びっくりしてしまう。
なんだか急に親近感を抱いてしまう。

いつも学びか多き「シャンソン酒場peuple」でのひととき。
そろそろ雪も降るし、次回訪ねるのは来年になるだろうか。