シャンソン愛

峰艶二郎(みね えんじろう)による、シャンソンについて綴るブログです。htmt-mth@ezweb.ne.jp

木月京子

ふと、札幌出身のシャンソン歌手について調べてみた。すると、木月京子が札幌出身者であることが分かった。

木月京子は、昭和22年札幌生まれ。PL学園音楽科卒業後に、サンケイホールでリサイタルを開いて、デビューした。同時に、レコード会社の専属歌手になりシングルを数枚リリース。そして、銀巴里の専属歌手としてシャンソンの道を歩み始め、並行してオペレッタ(オペラとミュージカルの合の子のような音楽劇)の女優としても活躍した。平成21年、没。

ネットで調べると、彼女はシャンソン歌手よりも、オペレッタの女優として多く紹介されている。日本オペレッタ協会の会員でもあり、実力派の歌手だったようだ。

同郷の者として、彼女の歌を聴いてみたいと思っていたところ、平成17年に「木村朱里(きむらじゅり)」と改名して、「風の花」というアルバムを出しているのが分かった。
ちなみに、ネットには木村朱里名義の情報は皆無。これには、何らかの事情があるのだろう。

トラック1~3はオリジナル曲。こちらは、あまり印象に残らなかった。
注目すべきはトラック4以降で、これらの楽曲はドイツのカバレットソングである。
カバレットソングとは、1920~30年代のドイツのキャバレーで歌われた楽曲のことだ。キャバレーとは、もともとフランスのモンマルトル発祥の、酒を飲みながら歌手や芸人たちのステージを楽しむ店のことで、市井の生活をテーマにした歌や出し物が披露され、庶民をはじめ芸術家たちの溜まり場となった。これが、ヨーロッパ各地に広がり、ドイツではカバレットと呼ばれている。
ドイツのカバレットでは、フランスのシャンソンのような流行歌だけでなく、オペレッタの歌手が劇中歌を披露することもあった。このアルバムには、そんな楽曲の数々が網羅されている。
それにしても、楽曲の内容がなかなか面白い。例えば、「ロマーニッシェス・カフェの娘達の歌」では、文化的なカバレットに出入りする背伸びした娘達をからかい、「万引き女」では病的な盗み癖のある女を歌い、「塹壕」では第一次世界大戦の犠牲を通じ、戦争批判をする。
戦前のドイツにも、こんなにも豊潤な歌の世界が広がっていたのを初めて知った次第である。

このアルバムの世界観は、ドイツ映画「嘆きの天使」を彷彿とさせる。あの酒樽ひしめく雑然とした空間に、男装のマレーネ・ディードリッヒが声を張り上げる退廃的な空間である。
木月京子がシャンソンではなく、あえてカバレットソングを遺したことに、彼女の表現者としての研究精神や、時代や国を越えた庶民の心情に共感する姿勢を感じる。